夢桜 最終話 三本の夢桜 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (病室に昴と控誇二人きり) 昴「あ……あの……」 控誇「何?」 昴「いや……ご、ごめん……」 控誇「何で昴が謝る必要があるの?」 昴「その……私……邪魔なんだよね……」 控誇「ふん……あのまま死んじゃえばよかったのに」 昴「……っ!?」 控誇「そしたら、あたしと朔矢で何の邪魔もなく一緒になれたのに。    昴が入院してから朔矢はあんたにつきっきりよ」     昴「あの……私……」 控誇「あんたがいるから、いつまでも朔矢はあたしを見てくれない。    あんたさえいなければ……」         昴(……いや……いやあああ!) (昴、ナイフで控誇を刺す) 控誇(あ……うぐっ!?) 昴(私は……私は何もしてない……!   私は……悪くない……!) 控誇(こ、このナイフ……なんでここに……?) 昴(控誇……これでおあいこ……同罪だね……) 美來「人生も自分が書いた台本を演じることなのよね。    その先のストーリーも考えて、アドリブも考えて、ね」 昴「えっ? 先生?」 控誇「どうしたのよ、先生はまだ朔矢と外にいるよ」 昴「でも、今確かに……」 控誇「しらばっくれてもあたしは何度でも言うよ。    はっきり言って、昴、邪魔なの」     昴「……冗談……よね?」 控誇「ここまで来て冗談なんて言える?    あたしは昴を本気で殺そうとした。    あんたがいなくなれば、きっと……うまくいく」             昴(私がいなくなれば……) 控誇(もういい、あたし帰るわ) 昴(……待って、控誇) 控誇(何? あたしも時間ないんだけど) (昴、ナイフで自分の胸を刺す) 昴(ぐ……かはっ……!   これで……いいかな……)    控誇(……っ!?) 昴(私……ちゃんと……いなく、なるから……。   それで……控誇は……うまく、いくんだ……よね……) 控誇(じ……自分で自分を刺すなんてバカじゃないの……!?) 昴(……バイバイ……控誇……朔矢……君……) 美來「謝ることは大事なことだけど、実際にはそんなに悪いことをしていないことも多いのよ。    もっと自分を大事にしなさいね」 昴「えっ?」 控誇「何よ、また空耳でも聞こえた?」 昴「あ……そっか……」 控誇「聞かない振りしてればいいと思ってるの?    いい加減に……」     昴「いい加減にして欲しいのは控誇の方よ」 控誇「えっ……?」 昴「これから先もずっと、朔矢君につく虫は殺していくわけ?   それで朔矢君と一緒になって幸せになれるの?」    控誇「な……なれるよ!」 昴「じゃあ、被害者は私が最後にしてあげる。   全て、警察に証言する。   これで控誇は前科持ちね」    控誇「くっ……!」 (教室に美來と朔矢が入ってくる) 美來「昴さん、よく言えたわね」 昴「先生、今のでよかったんですか?」 美來「正解はないけれど、ここに3人ともいる。    それでいいんじゃないかしら?」     控誇「ふぅ〜……ヒヤヒヤしたよ、も〜」 朔矢「いい演技だったな、控誇」 控誇「だって、これもうドッキリみたいなもんじゃん〜」 昴「え? どういうこと?」 美來「昴さんが思い出したこと、この二人も経験しているのよ」 控誇「昴! 本当にごめん!」 昴「え? ええっ?」 控誇「あの時は本当にあたしどうかしてて……。    先生に前世の記憶を思い出させてもらって、あたしも気付いたの」     昴「あ……そうなんだ、控誇も私と同じ経験を……」 朔矢「俺も前世での経験があったんだよ。    さっき、全てのことを先生に聞いて、俺も分かったんだ」 美來「これであなた達の魂は修正されたわね」 朔矢「ありがとうございます、先生」 美來「でも、私に前世は見えても、未来は見えないからね。    これから先どう生きるかはあなた達次第よ」     昴「はい、分かっています」 美來「でも、前世の記憶を持ったままだと、これから進みにくいわよね。    今まで見てきたのは、実際にあった正夢のようなものだしね」     朔矢「そう……ですね……。    俺も一度は控誇を……」     美來「私が3人の記憶を、少しだけ消してあげるわ」 控誇「そんなことできるんですか?」 美來「ふふ、控誇さんならそう言うと思ったわ。    前世で一度説明してあげたから、思い出すといいわ、ふふ」     (美來が指をならすと、3人倒れ込む)     控誇「えっ? でも、思い出すって言っても……」 朔矢「あ……れ? 立って……られ……ない……」 昴「あ……あれ?」 美來「災難だったわね、昴さん。    朔矢君といちゃついてて教室から転落しちゃうなんて」     昴「……えっ!? いや、その……いちゃいちゃなんか……!」 朔矢「ご、誤解ですよ、先生!」 控誇「いちゃつくのはいいけど、こんな大事(おおごと)にして欲しくなかったよ〜。    本当に心配したんだからね〜」     昴「ご、ごめんね。   私が勝手に騒いじゃって、窓に座ってたりしてたから……」    朔矢「俺は危ないって言ってただろ」 昴「な、なによ、朔矢君だって最初は窓に座ってたじゃない!」 控誇「あー、はいはい、お熱いことで〜。    先生〜、邪魔者は退散しましょ〜」 美來「ふふ、そうね。    それじゃ、二人ともゆっくりね」     朔矢「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」 昴「あっ、二人にしないで〜!」 (病院の廊下) 控誇「先生」 美來「ん? なあに?」 控誇「あたしって、前世になにかあったのかな?    何て言うんでしたっけ、デジャヴ?」     美來「あら、前にも似たような経験したことがあるの?    デジャヴは短期記憶と長期記憶の重なりで感じることもあるそうよ」     控誇「そっかあ、よく分かんないけど、なんか夢見てたみたい」 美來「夢……ね。    その夢の中で桜は咲いてた?」     控誇「……咲いてましたよ。    先生と一緒に見た気がします」 美來「輪廻転生、魂は同じ人生を繰り返す。    生まれた地、環境、巡り合わせにかかわらず。    人間という器に閉じ込められた魂は、この輪廻から外れることはできない。    前世の記憶は夢のように幻となり、人間という器は桜のように散る。    散った桜は、また春になれば美しく咲き誇る――――」