夢桜 第9話 朽ちて糧となる倒木 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (病室に朔矢が入る) 朔矢「よっ、昴、具合はどうだ?」 昴「あっ……朔矢君……」 朔矢「昨日はあんなこと言ってたけど、やっぱり心配で来ちゃったよ」 昴「うん、昨日のことは気にしないで。   ありがとう」    朔矢「少しは気持ちも落ち着いたか?」 昴「一晩したら、だいぶ楽になったよ。   ごめんね、心配かけて」    朔矢「そっか、よかった」 昴「今日も部活帰り?」 朔矢「ああ、大会近いからな、このところは毎日部活だよ」 昴「そっか……あ、そういえばテストって……」 朔矢「昴は大丈夫だよ、入院中だし、心配する必要ないよ」 昴「そう……だよね、この場合、ちゃんと単位もらえるのかなあ?」 朔矢「さすがに追試とかでなんとかやってくれるんじゃないのか?」 昴「そうね、あー、英語の勉強しなきゃ〜。   また控誇に教えてもらおうかな。   ……あっ……」    朔矢「……そうだな」 ← 少し不機嫌そうに 昴「あ……いや……その……」 朔矢「……今度、控誇もお見舞いに誘ってみるよ」 昴「えっ?」 朔矢「結局、控誇も俺らの働いているあの店でバイトすることになったんだ。    最近はまだバイトの研修で忙しいみたいだけどな。    テストやら大会やら近いのに何やってんだか……」     昴「い、いや……そんなに忙しいなら無理に誘わなくても……」 朔矢「昴の意識が戻ったんだぜ?    一度くらいは顔見せるように言っておくよ」     昴「だ、大丈夫だよ……いいよ……」 朔矢「……控誇に会いたくないのか?」 昴「いやっ……そういうわけじゃあ……」 朔矢「どうせ退院したら、学校で毎日顔合わせることになるんだぜ。    今からお見舞いくらい、いいじゃないか」     昴「あ……う、うん……」 朔矢「それじゃ、俺は今日はそろそろ帰るよ。    お大事にな」     昴「う、うん……ありがと……。   ……朔矢……まさか控誇のこと気付いて……。   でも……私、どんな顔すれば……」 (病室に美來が入る)    美來「こんにちは、昴さん、具合はどう?」 昴「あ、先生、こんにちは」 美來「少し落ち着いたみたいね」 昴「はい、気持ちも落ち着いてきました」 美來「今日はプリント持ってきたわよ。    とはいっても、入院中はあまり用がないかもしれないけどね」     昴「いえ、わざわざありがとうございます。   テストも前で忙しい時期に……」    美來「なあに、教え子が入院しているんだもの、たまには様子を見にこないとね。    ところで、何をしてて3階から転落しちゃったのか覚えてる?」     昴「えっ? ……い、いや……覚えてないです……」 美來「そっか」 昴「……すみません」 美來「謝る必要はないわよ。    あ、これお見舞いのフルーツ?    リンゴむいてあげようか」     昴「あ、はい、すみません、いろいろと……」 美來「こんなこともあろうかと、ナイフ持ってきてるから。    とは言っても、このナイフは私のじゃないけどね」     昴「えっ……?」 美來「これは朔矢君からの差し入れかしら。    昴さんの意識が戻ってから朔矢君も部活頑張っててね。    最近はまたいい演技するようになったのよ」     昴「え? ……あ……そうですか……」 美來「そう考えると、人生も自分が書いた台本を演じることなのよね。    その先のストーリーも考えて、アドリブも考えて、ね」 昴「でも、私は演劇部でもないですし……」 美來「演劇をやっていなければ演技をやれないというわけでもないのよ。    あ、ごめんね、私ってば演劇部の顧問だからついつい」     昴「いえ、すみません……」 美來「美味しそうなリンゴよ、はい、どうぞ」 昴「すみません、ありがとうございます」 美來「あー、もう、昴さん、入院してからまたその癖ひどくなったわね」 昴「え? 私の癖?」 美來「その、すみません、という言葉よ」 昴「あっ……」 美來「謝ることは大事なことだけど、実際にはそんなに悪いことをしていないことも多いのよ。    もっと自分を大事にしなさいね」     昴「え? あっ……はい……」 (病室に朔矢が入る) 朔矢「悪いな、今日も来ちまった」 美來「あら、朔矢君」 昴「あ、朔矢君……」 朔矢「先生も来てたんですか」 美來「なによ、私がいたら悪いわけ〜?」 朔矢「そ、そんなことないですよ。    ほら、来いよ、控誇」     昴「控誇……っ!?」 控誇「……お見舞いに来たよ」 ← 少し不機嫌そうに 美來「あら、控誇さんも来てくれたのね」 控誇「今日はバイトが休みだったから……。    それに、朔矢が行け行けって……」     朔矢「おい、控誇、そんなこと言うなよ」 昴「あ、あの……ご、ごめんね、心配かけて……」 控誇「別に……早く治しなさいよね」 昴「うん……」 朔矢「……おい、それだけかよ」 ← 少し不機嫌そうに 美來「あ〜、そうだ、朔矢君、ちょっといいかしら?」 朔矢「え? 何ですか?」 美來「ちょっと、ね。    進路のことだから、ここじゃあれかな、と思ってね」     朔矢「な、何も、今そんな話しなくてもいいじゃないですか。    それに……」     控誇「……何? 朔矢」 朔矢「な、なんでもないよ」 美來「すぐ終わるから大丈夫よ。    ……昴さんも大丈夫だから」 ← 耳打ちするように     朔矢「……えっ?」 美來「さ、ちょっと廊下に行きましょう」 朔矢「……はい」 美來「さて……と。    総仕上げね」