夢桜 第8話 倒れた木 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (教室の窓際) 控誇(その物語にはカップルがいてね、そのカップルの男を好きになった女がいるんだ) 昴(そうなんだ……でも、それが何か関係あるの?) 控誇(その女は、男を愛しすぎるが故に、相手の女を殺しちゃうんだ) 昴(え……?) 控誇(ふふ……その女ってのはまさにあたし。    カップルの男は朔矢で、女は昴ね)     昴(な、何を言って……) 控誇(昴、あなたが死んでしまわないと、劇は進まないのよ) 昴(え……? 控誇……!?) (病院の一室、昴が目を覚ます) 昴「……控誇……控誇!?」 美來「昴さん、よかった、目が覚めたようね」 昴「えっ? あれ……私……」 美來「一週間も昏睡状態だったのよ。    本当に心配したんだから」     昴「先生……ここは……」 美來「ここは病院よ。    昴さん、あなたの身に何が起こったか覚えてる?」     昴「私……私は……」 控誇(昴、あなたが死んでしまわないと、劇は進まないのよ) 昴「いっ……いえ……何も覚えていません……」 美來「あなたは3階から転落事故を起こしたのよ。    幸い、中庭の木に引っかかって一命はとりとめたけど。    それでこの病院に搬送されたってわけ」     昴「そう……だったんですか……」 美來「頭に衝撃を受けて、記憶の一部が飛んでしまったのかもしれないわね。    それよりも首の傷、大丈夫?」     昴「首? あ……痛……」 美來「その傷も木の枝でできちゃったのかもしれないわね。    転落の衝撃よりも、首の傷の出血の方がひどかったらしいわよ」     昴「そ、そうなんですか……」 (病室に朔矢が入る) 朔矢「昴……?    目が覚めたのか!?」     昴「あ……朔矢君……」 朔矢「大丈夫か!?    よかった……よかった……!」     美來「ついさっき目が覚めたところよ。    朔矢君、毎日お見舞いに来てたのに、私がその瞬間に立ち会っちゃってごめんね」     朔矢「いえ、そんなことありませんよ。    って、先生、僕が毎日お見舞いに来てたことなんて言わないでくださいよ」 昴「そう……なの……。   ありがとう……朔矢君」    朔矢「昴も無事だし、どうってことないよ」 美來「それじゃ、私は帰るわね。    昴さん、一段落ついたらナースコールでお医者さん呼ぶようにね」     (美來、病室から出る)     昴「あ、はい、ありがとうございました」 朔矢「お疲れ様です、先生」 昴「……ごめんね、朔矢君、心配かけちゃって……」 朔矢「言ったろ、構わないよ」 昴「その……部活は、いいの?」 朔矢「大丈夫だよ、今日も部活帰りだし」 昴「そうなんだ……」 朔矢「あ、そうだ、バイト先にも連絡はしておいたよ。    退院できるまでゆっくり治すようにな」     昴「うん、ありがとう。   あの……」    朔矢「ん? なんだ?」 昴(……控誇は……元気にしてる……?) 朔矢(……控誇か?    ……ああ、いつも通りだよ) ← 少し不機嫌そうに     昴(そ、そう……) 朔矢(なんでお前が控誇のことを気にするんだよ) ← 少し不機嫌そうに 昴(え? い、いや……別に……。   大会、近かったよね? だから……)    (美來、病室に入る) 美來「忘れてたー、朔矢君、明日の練習は私も行くから、5時までに準備済ませておいてね」 昴「あっ……先生?」 朔矢「あれっ、先生、まだ帰ってなかったんですか」 美來「なによ、思い出して戻ってきたのよ。    そんな言い方ないんじゃないの〜?」     朔矢「あはは、すみません。    明日ですね、分かりました」 美來「それじゃ、今度こそ邪魔者は退散するわね〜」 朔矢「じゃ、邪魔者だなんて思ってませんからねー」 美來「あはは、また明日ね〜」 (美來、病室から出て行く) 昴「うん……私は大丈夫だから、朔矢君は劇頑張ってね」 朔矢「え? いや、頑張るけどさ」 昴「その……もう、お見舞いには来なくても大丈夫だから……。   劇、頑張ってね」    朔矢「な、なんでだよ。    俺がお見舞いに来るのは迷惑か?」     昴「い、いやっ……そんなわけじゃないけど……」 朔矢「……3階から転落しちまったんだもんな。    気持ちが混乱してるのも仕方ないか」     昴「あ……いや……。   ……うん……」 朔矢「まあ……本当にお見舞いが嫌なら来ないけど……。    たまに来るくらいはいいよな」     昴「え? あ、うん……ごめん、なんでもないよ。   さっきのことは忘れて……」    朔矢「ああ、じゃあ今日は俺バイトだからもう帰るな。    無理しないでゆっくりしておけよ」     昴「うん、ありがとう」 朔矢「じゃあな」 昴「……そうよね、控誇のことなんか言えないよね……」