夢桜 第7話 自身の力で芽生える花 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (演劇部の部室) 控誇「さって、そろそろ帰ろっか」 朔矢「ああ、そうだな、結構練習したしな」 控誇「今日は一緒に帰ろうよ〜」 朔矢「ん? ああ……今日もバイトだし……」 控誇「え〜……じゃあ……」 朔矢「……お前、何してんだ?」 (控誇が朔矢に本物のナイフをつきつける) 控誇「一緒に帰れなければ、あたしがついていけばいい……なんてね」 朔矢「おい、それ本物のナイフだろ? な、何してんだよ……」 控誇「ねー、途中まで一緒に帰るくらい、いいでしょ〜?」 朔矢「お前……こんなことして……」 控誇「……あたしは狂ってはいないよ」 (朔矢、控誇を振り払って部室を出る) 朔矢「あー、もう! 俺は先に帰る、またな!    全く……控誇のやつ、本気なんだかなんなんだか……。    っと、昴の奴待たせちまってるな、早く行かねーと」     美來「連絡します。    2年4組の朔矢君、連絡がありますので、職員室まで来てください」     朔矢「ん? 先生?    はぁ〜……まあ、この放送なら昴も聞いているだろうからいいか」         (職員室)     朔矢「失礼します」 美來「あ、ごめんね〜、放課後に呼び出しちゃって」 朔矢「いえ、構いませんよ」 美來「今度の演劇の大会の件なんだけど、なんか公開する劇の概要を提出しなきゃいけないらしくてね」 朔矢「はあ……でも、それが何か?」 美來「それを主役の朔矢君に書いてもらおうかな、と思って」 朔矢「え? 僕がですか?    でも、先生も台本持ってますよね」     美來「実際に演じてみないと、劇の真髄は分からないものよ。    現実も一緒、行動を起こしてから分かるものもあるのよ」     朔矢「は、はあ……?」 美來「テスト前で大変だろうけど、よろしくね」 朔矢「え? あ、はい、分かりました。    それでは、失礼します。    概要ねぇ……台本から抜粋じゃダメなのかな。    っと、そろそろ行かないと、バイト自体に遅れちまうな」     (朔矢、教室に入る) 朔矢「悪ぃ、遅れちまった」 昴「あ、朔矢君」 控誇「あら、朔矢、まだバイト行ってなかったの?」 朔矢「って、控誇、何でこんなところにいるんだ?」 控誇「別に……いいじゃない……。    それよりも、バイトはいいの?」 朔矢「ああ、放送聞いただろ、先生に呼び出されててな」 控誇「ふーん……そう……」 (控誇、本物のナイフを取り出す) 朔矢「っ!? お前、そのナイフ……!」 控誇(朔矢が先に来るのは予定外だったわ……) 朔矢(何を言ってるんだ? 早くそのナイフをしまえ……!) 控誇(ここからは、アドリブでやるしかないかぁ……) 昴(えっ、何? どういうこと?) 控誇(さっき話してた劇の続き、女は、カップルの女を殺してしまうんだ) 昴(えっ? 控誇?) 朔矢(待て!) 控誇(どちらにせよ、台本通りに進めるから大丈夫よ) 朔矢(うおおお!) (朔矢、控誇のナイフを奪い、そのまま控誇を刺す) 控誇(あっ……) 昴(さ、朔矢君!? 控誇!?) 朔矢(……はぁ……はぁ……) 控誇(あれ……? 何で……ナイフが……あたしに……?) 昴(朔矢君! 何てことを!) 朔矢(昴、お前は控誇に殺されようとしてたんだぞ!) 昴(だからといって、控誇を刺すことはないじゃない!) 朔矢(控誇は本気だった、数日前から……狂ってたんだよ!) 控誇(朔矢……あたしは……狂ってなんかいないよ?    あの劇みたいにすれば……朔矢が振り向いてくれると思って……)     朔矢(はぁ……はぁ……黙れ!) 昴(もうやめて! 朔矢君!) 控誇(うぐっ……でも……朔矢の手で殺されるのなら……本望だよ……。    これが……朔矢の返事なんだもんね……。    悔いは……ないよ……ありが……とう……)     昴(控誇……!? 控誇!?)     朔矢(……これで……邪魔者はいなくなった……) 昴(な……何を言ってるの……?) 朔矢(俺は……俺はお前のことが好きだ。    邪魔者は……もう、いない……)     昴(いや……いやよ……) 朔矢(何が嫌なんだ?    これで、二人きりになれたんだぜ……?    俺は……控誇を殺してしまった……。    けど……俺は、お前を離したくない……一緒に……逃げよう)     昴(い、いや……いやあああ……!) 「実際に演じてみないと、劇の真髄は分からないものよ。 現実も一緒、行動を起こしてから分かるものもあるのよ」 朔矢「っ!? 先生!?」 昴「え? 先生はいないよ?」 控誇「……これ以上、このシーンに役者はいらないわ。    劇を、進めるわね」     朔矢「待て! 控誇!」 (朔矢、控誇を抱きしめる) 控誇「……あっ……」 朔矢「……お前は、お前を愛していないと言っている男に抱きしめられて、嬉しいか?」 控誇「え……?」 朔矢「これは劇じゃなくて現実だ。    俺が愛しているのは、控誇、お前じゃない……昴だ」     昴「えっ……?」     控誇「じゃあ……なんであたしのこと抱きしめてるの……?」 朔矢「だから言っているんだ。    これが、お前が望んでいたことか?」     控誇「……違う……。    そんなこと言われたら……全然嬉しくない……。    あたしが望んでいるのは、こんなことじゃない……」     朔矢「俺も曖昧にしてて悪かった」 控誇「……なーんか、冷めちゃった」 朔矢「控誇?」 控誇「ここまではっきり言われちゃあねえ。    でも、せっかくだから、チューしてよ、チュウ」     朔矢「は? いや、お前……」 控誇「ほら〜、早く昴とバイトに行かないとホントにチューしちゃうぞ〜」 朔矢「あー、もう!    い、行くぞ、昴」 昴「え? あ……う、うん」 控誇「行ってらっしゃ〜い。    ……はぁ……二度目の失恋かあ」     美來「あら? 気付いてたの?」 控誇「あ、先生いつの間に……って、いまさら驚く必要もないか」 美來「いつ、思い出したの?」 控誇「なんだろ、なんとなく……そんな気がしただけ。    輪廻からは外れない……かあ」     美來「でも、これで朔矢君にも、控誇さんにも未来を歩くことができるわ」 控誇「そうですね。    とりあえず、朔矢にギューってしてもらえたから、いいっか〜」     美來「それは、夢じゃないからね。    私は未来は見えないけど、控誇さんの桜、新しく花が咲こうとしているのは見えるわよ」     控誇「ホントですか〜?    早く桜、咲いてくれないかなぁ〜」     美來「焦らなくても大丈夫よ」 控誇「校庭の桜も、きれいに咲いていますもんね」 美來「ふふ、そういうこと」