夢桜 第5話 真っ直ぐな幹 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (演劇部の部室、舞台上) 控誇「私は狂ってなんかはいないわ」 朔矢「こんなことをしても無駄だ……。    俺の心は揺るぎはしない」     控誇「私は本気よ、あなたの心が動かないのなら……。    私は、あなたを殺して、私も……死ぬ」     朔矢「俺も、本気だ。    好きにするがいい、あいつのいないこの世になんて、未練は、ない」     控誇「くっ……!    あの世で仲良くするといいわ!」     (控誇、オモチャのナイフで朔矢を刺す)     朔矢「うっ、ぐ……!」 控誇「……来世で……一緒になりましょう……」 美來「はい、カーット」 控誇「ふぃ〜、ここで暗転ですね」 朔矢「この後って、上手(かみて)にはけるんでしたっけ」 美來「そうね、次は空想のシーンで朔矢君は衣装を着替えて上手から出てくる形ね」 控誇「あたしはどっちにはければいいんですか?」 美來「次のシーンまで合間があるから、控誇さんはどちらでもいいわよ」 控誇「じゃあ、あたしも上手にはけようかな〜」 朔矢「なんでだよ、お前は下手(しもて)にはけた方がいいんじゃないのか?」 控誇「え〜、いいじゃ〜ん、どさくさに紛れて〜」 朔矢「な、なにがどさくさに紛れて、だよ」 美來「あー、そうだ、朔矢君」 朔矢「はい、何か?」 美來「自分なりにもう少しアドリブをきかせてもいいのよ」 朔矢「そ、そうですか?」 美來「台本が全てじゃないのよ。    時には台本を自分に合わせていくのも大事よ」     朔矢「はい……考えてみます」 控誇「そーだよ〜、朔矢ってきっちり台本通り読むもんね」 朔矢「だって、作った人のセリフだろ?    できるだけ忠実にやらないと、シナリオのニュアンスも変わってくるだろ」     美來「台本通りにやるのも大事だけど、まあ、ひとつのアドバイスとしてね。    それじゃ、二人ともお疲れ様」     朔矢「はい、お疲れ様です」 控誇「お疲れ様で〜す」 朔矢「さて、俺は今日もバイトだし、またな」 控誇「うん、ばいば〜い」 朔矢「ん? ……ああ、じゃあな。    ……珍しいな、控誇が一緒に帰ろうって言わないなんて。    しかし、アドリブ……ねぇ……苦手なんだよな。    控誇もいつもとは違う態度、あれもアドリブのつもりか?    ま、いいか、めんどうなことにならなくて済んだし」     (朔矢、教室に入る) 昴「あ、朔矢君、お疲れ様〜」 朔矢「おう、待たせちまったな、バイト行くか」 昴「大丈夫だよ、宿題やってたとこだし。   家じゃなかなかやる気になれなくてね〜。   朔矢君待ってる間に宿題やるのがちょうどよかったりして、えへへ」    朔矢「そっか、確かに家じゃやる気でないよな〜」 昴「だよね〜。   あ、今日もバイトまで少し時間があるし、また一緒に宿題やらない?」    朔矢「ああ……」 「台本が全てじゃないのよ。  時には台本を自分に合わせていくのも大事よ」     朔矢「え?」 昴「どうしたの? 忘れもの?」 朔矢「いや、今……なんでもないよ。    ……それより、今日は少し本屋に寄らないか?」     昴「あは、珍しいね、朔矢君がどこか行こうっていうの」 朔矢「そうか?」 昴「そうだよ、朔矢君って、自分から何かしよう、って言わない人だもん」 朔矢「自分から……か……」 昴「それじゃ、行こっか〜」 朔矢「ああ」 (控誇、朔矢と昴と入れ違いで教室に入る) 控誇「あちゃ〜、今日も歴史の教科書忘れちゃった〜。    ……さて、どうやって時間つぶそっかな〜」 昴(だよね〜。   あ、今日もバイトまで少し時間があるし、また一緒に宿題やらない?)    朔矢(ああ、いいよ、俺も宿題やっておきたいし) 昴(朔矢君って数学得意だから、宿題はかどる〜) 朔矢(ちゃんと自分で解けよ〜、俺は教えるだけだから) (控誇が教室に入る) 控誇(あれ? 朔矢?    まだバイトに行ってなかったの?)     朔矢(え? ああ……控誇か……。    少し時間があったから、軽く宿題でもやっていこうかと思って、な) 控誇(へぇ〜……あたしもやろうかな〜) 昴(あ、控誇も一緒にやろ〜。   控誇は英語得意だもんね〜)    朔矢(あ、ああ……さっさと終わらせるか……) 控誇(なによ〜、ゆっくりやろうよ〜) 朔矢(え? ああ……バイト遅れないくらいにな……)