夢桜 第4話 散りて栄える葉桜 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (控誇一人の教室に美來が入る) 美來「あら、控誇さん、帰らないの?」 控誇「あ、先生、ちょっと歴史のノート忘れちゃって」 美來「ちょっとー、それ私が教えてる科目じゃない」 控誇「……先生」 美來「何?」 控誇「先生が助けてくれたんですよね?」 美來「ん? 何のこと?」 控誇「先生の声が、聞こえた……。    それと……たぶん、前の記憶……」     美來「そっか、気づいちゃったか」 控誇「これって、どういうことなんですか?」 美來「転生、って知ってる?」 控誇「転生……?」 美來「そう、転生。    あなたが見た記憶は、あなたの前世の記憶よ」     控誇「前世の記憶……あたし、前世にあんなこと……」 美來「そうよ、あなたが何をしたのかは、あなた自身が一番よく分かっているはずよ」 控誇「じゃあ、あたしは……また同じことを繰り返そうとして……」 美來「魂は同じ人生を繰り返すものよ。    何度繰り返しても、どんな環境になっても、結末は同じ」     控誇「それなら……私はこれからあんなことを……?」 美來「あなたはさっき、前世を断ち切れたじゃない」 控誇「え?」 美來「人間という器は違っていても、あなたは確かに前世に過ちを犯した。    ……そう、何度も、何世代もね。    でも、あなたはその過ちを断ち切った。    あなたの魂は生まれ変われたのよ」     控誇「そっか……先生のおかげです」 美來「なぁに、私はそのお手伝いをしただけよ」 控誇「先生は……何者なんですか?」 美來「ん? 私は歴史の教師よ」 控誇「いや、そうじゃなくって……」 美來「ふふ……もうあなたは知っているからいいわね。    そうね、私はここであなたのような辛い輪廻を繰り返す魂を救う者」     控誇「ここ……って、高校?」 美來「ええ、そうよ。    この高校には辛い輪廻から抜け出せない魂が集まるところなの。    私はその魂が生まれ変わるお手伝いをしてるわけ」     控誇「え……? ということは、朔矢と昴も?    でも、二人とも前世で私が……」     美來「あなたの前世では、あの二人はあなたの人生のエキストラに過ぎないわ。    前世ではその途中であなたに器を壊されたけども、前々世では……。    って、私としたことがお喋りが過ぎたわね」     控誇「そのことって、秘密なんですか?」 美來「基本的にはね。    でも、時々、あなたみたいに前世の存在に気づく子もいるから、全部秘密というわけじゃないわね」     控誇「そうなんだ……でも、そんな秘密を知っちゃった私は、これから先……」 美來「安心して、あなたの記憶は消させてもらうわ」 控誇「えっ? でも、そんなことしたら、また同じことを繰り返して……」 美來「言ったでしょ、あなたの魂は生まれ変わったわ。    同じ過ちは繰り返さない。    腐敗した枝を切り落とせば、そこからまた新しい枝が伸び、花が咲く。    毎年きれいに咲く桜のように、ね」     控誇「え? それはどういう……」 美來「はい、ここまで」 (美來が指をならすと控誇が倒れる) 控誇「う……」 美來「夢で終わらせれば何度でも繰り返せる。    目が覚めれば、また、きれいな桜の花を咲かせることができるわ。    ふう、ここまで好奇心旺盛な子も珍しいわね。    輪廻から外れることはないけど、違う人生を歩むことはできるからね。    お節介とは分かってはいるけど、私の性分的に見過ごせないのよね」     (控誇、起き上がる) 控誇「……あれ? 先生?」 美來「おはよう、控誇さん。    こんなところで何してたの?」     控誇「あれ? 私……歴史のノートを取りに戻って……。    あー、そうだ!    聞いてくださいよ、先生〜、あたし失恋しちゃったぁ〜、わーん」     美來「あらあら、先生でよければ話を聞いてあげるわよ」 控誇「こんなあたしでも彼氏できるかなぁ……」 美來「できるわよ、世の中の人間の半分は男なのよ。    控誇さんでも構わない、って人は一人くらいいるわよ」     控誇「ちょっとー、先生、それ全然なぐさめになってなーい!」 美來「あら失礼。    ふふ、でも一つ経験したんだし、控誇さんならこれから素敵な恋愛できるわよ。    ほら、桜、きれいに咲いているもの」