夢桜 第3話 紅い桜 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (職員室) 美來「はい、控誇さん、この前のナイフ、返すわね」 控誇「え? いいんですか?」 美來「いいもなにも、元々あなたのものでしょう。    返しはするけど、もうこんなものを学校に持ってきちゃダメよ」     控誇「はい、すみませんでした」 美來「あー、それと控誇さん」 控誇「はい?」 美來「現実と演劇は別物だからね」 控誇「え?」 美來「演劇は間違ってもやり直せばいいけど、現実は一度きり。    間違いを起こしたら取り返しつかないからね」     控誇「はあ……。 なんでそんなことを私に?」 美來「この前、朔矢君にそのナイフをつきつけて練習してたでしょ」 控誇「あ……見てたんですか……」 美來「あの時、朔矢君が怪我でもしてたら大変でしょ。    その教訓よ」     控誇「はい、気をつけます……」 美來「うん、じゃあ、気をつけて帰ってね」 控誇「はい、失礼します……。    ……はあ……いいアイデアだと思ったのになあ。    それに、うまくいけば朔矢と一緒に……。    ……あっ、歴史のノートってカバンに入れたっけ。    あちゃー、無い……教室戻ろ……」     (控誇、教室に入る)     控誇「あれ? 昴?」 昴「あ、控誇、どうしたの?」 控誇「いや、ちょっと歴史のノート忘れちゃってね」 昴「テスト近いんだよ〜、しっかり持って帰って勉強しなきゃ」 控誇「昴は何してたの?」 昴「うん、バイトに行くから朔矢君を待ってたんだ」 控誇「っ!?」 昴「あ、そうだ、控誇も一緒に行く?   店長には話しておいたから、そのまま面接してもらえるかも」    控誇「……べ、別に……朔矢と二人でバイトに行けばいいじゃない……」 昴「控誇?」 控誇「あ、ごめんごめん、ちょっと風にあたるね……」 昴「大丈夫? 控誇……」 控誇「うん……昴もおいでよ、こっち、風が涼しいよ」 昴「……うん、涼しいね」 (二人で窓際に向かう) 控誇「……ねえ、昴って朔矢のこと好きなの?」 昴「えっ!? い、いや、あたしはそんなこと……」 控誇「あたしは朔矢のことが好きだよ」 昴「え……?」 控誇「だから朔矢と同じ演劇部に入ったし、今度は同じバイトをしようとしてる」 昴「そう……だったんだ……」 控誇「……でもね、あたしがいくら追いかけても……朔矢が見てるのは、昴なんだよね」 昴「えっ!?」 控誇「ああ……劇にもこんなシーンあったなあ……」 昴「……今度やる劇のシーン?」 控誇「うん、実はね、悲劇なんだ」 控誇(その物語にはカップルがいてね、そのカップルの男を好きになった女がいるんだ) 昴(そうなんだ……でも、それが何か関係あるの?) 控誇(その女は、男を愛しすぎるが故に、カップルの女を殺しちゃうんだ) 昴(え……?) 控誇(ふふ……その女ってのはまさにあたし。    カップルの男は朔矢で、女は昴ね)     昴(な、何を言って……) 控誇(昴、あなたが死んでしまわないと、劇は進まないのよ) 昴(え……? 控誇……!?) (控誇、昴にナイフを突き刺し、窓から突き落とす) 控誇(……こうして男の愛していた女は……死んだ……。    次はあたしが男を脅すシーンね……)     朔矢(お前……! 今何をした!?) 控誇(あら……朔矢、見てたの?) 朔矢(ここは3階だぞ!? 分かっているのか……!?) 控誇(台本通りよ……でも、朔矢に見られちゃったのは予定外だけど) 朔矢(何言ってるんだ……救急車を……!) 控誇(無駄よ、昴はもう、死んだ) 朔矢(お前、そのナイフ……血!?) 控誇(劇、失敗しちゃ、いけないからね……窓から突き落とす前に刺しておいたわ) 朔矢(お、お前……! ……警察に行こう……!) 控誇(朔矢、さっきから台本と違うことばかりよ。    アドリブやるなら、あたしもそうさせてもらうわ)     (控誇、朔矢にナイフを刺す)     朔矢(うっ、ぐ……!) (控誇、独り言をいいながら、自分の胸にナイフを刺す) 控誇(……男の心を捕まえることができなかった女は、生まれ変わって男と一緒になろうと思いました。    そう……女は男の息の根が止まるのを確認すると、自分の胸にもナイフを付きたてたのでした……。    ……男と……同じ……よう……に……) 「演劇は間違ってもやり直せばいいけど、現実は一度きり。  間違いを起こしたら取り返しつかないからね」 控誇「……えっ?」 昴「どうしたの? 控誇?」 控誇「え? 昴? なんで……ここに?」 昴「なんで、って、控誇が悲劇のシーンのことを話してくれてて……」 控誇「あれ……ナイフ……血がついてない……」 昴「え? 何?」 控誇「あ、ううん、なんでもないよ。    ……そっか……そういうことか……」     朔矢「昴、悪ぃ、遅くなっちまった」 昴「あ……朔矢君」 朔矢「あ、控誇もいたんだ」 控誇「……なーによ、あたしがいたら悪いわけえ?」 朔矢「そ、そんなんじゃねぇよ」 昴「控誇……あの……」 控誇「くすっ……ほら、行ってきなよ」 (控誇、昴の背中を押す) 昴「あっ……」 控誇「何? どうしたの〜? ふふふ」 昴「控誇、反対に……窓とは反対の方に押してくれた……」 控誇「えっ?」 昴「ううん、なんでもない、ごめんね」 控誇「そっか……。    あっ、そうだ、昴、悪いけど、店長にバイトの面接、キャンセルしたいって言ってくれる?」     昴「え? いいの?」 控誇「だってさ〜、もう、どう頑張っても昴には追いつけないもん。    はあ〜、フラれちゃったあ〜」     朔矢「ん? 何だ?」 昴「わわわ、な、何でもないよ!   ほらっ、バイト行こっ!」    朔矢「な、何だよ。    あ、控誇、明日の練習遅れるなよ」     控誇「はいはーい、明日からは本気で好きになっちゃうからね〜」 朔矢「は? 何言ってんだ?」 控誇「劇の中でくらい夢見させて、ってことっ」