夢桜 第2話 散り始めた桜 ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 (演劇部の部室、舞台上) 朔矢「くっ……脅しか?」 控誇「愛していなければ、これから愛してくれればいい……」 朔矢「馬鹿を言うな、こんな真似をされて愛せなんて……」 控誇「待った、うーん……なんかいまいち足りないわね〜……」 朔矢「そうか?」 控誇「朔矢、先生がいないからって、手を抜いてない?」 朔矢「そんなわけないよ、結構頑張ってるつもりだよ」 控誇「結構?」 朔矢「あ、いや、精一杯演技してるよ」 控誇「ふーん……あ、じゃあ、そうだ。    ふふ、これでちょっとやってみる?」     (控誇は本物のナイフを取り出す)     朔矢「え? お前、それ、本物?」 控誇「ええ、そうよ、これは本物のナイフ。    大丈夫よ、絶対怪我させたりしないからっ」     朔矢「そ、そうか……?」 控誇「ものは試し、行くわよ。    これでもまだそんなことを言っていられる?」     朔矢「……くっ……お、脅しか?」 控誇「愛していなければ、これから愛してくれればいい……」 朔矢「ば、馬鹿を言うな、こんな真似をされて愛せなんて……。    お前は……く、狂っているよ……」     控誇「くす、いい感じ〜」 朔矢「ふぅ、こりゃ本当にヒヤヒヤするぜ。    でも、確かにこれは迫真の演技ができるな」     控誇「目線もナイフに向かってて、本気モードって感じだったよ」 朔矢「ああ、そうだな、本当にナイフをつきつけられたら、相手じゃなくてナイフを見るもんだな〜。    勉強になったよ」     控誇「あはは、さって、そろそろ帰ろっか」 朔矢「ああ、そうだな、結構練習したしな」 控誇「今日は一緒に帰ろうよ〜」 朔矢「ん? ああ……今日もバイトだし……」 控誇「え〜……じゃあ……」 朔矢(……お前、何してんだ?) 控誇(一緒に帰れなければ、あたしがついていけばいい……なんてね) 朔矢(おい、それ本物のナイフだろ? な、何してんだよ……) 控誇(ねー、途中まで一緒に帰るくらい、いいでしょ〜?) 朔矢(お前……こんなことして……) 控誇(……あたしは狂ってはいないよ) 朔矢(あー、もう! 俺は先に帰る、またな!) 控誇(あっ、朔矢……。    ……ふう……何やってんだろ、あたし……。    こんなことしても朔矢を振り向かせることなんてできないのに……。    はあ……劇の役のせいで少し変になっちゃったかな。    風にでもあたって少し頭冷やさなきゃ。    ……あれ……朔矢が帰ってる……。    ……え?    一緒にいるのは……昴……?)             美來「はーい、カーット」 控誇「えっ?」 美來「もう、控誇ったらこんな物騒なものを学校に持ち込んで」 朔矢「あ、先生」 美來「二人で練習する分はいいけど、こんな練習法は危ないからやめてね」 控誇「あ……すみません……」 美來「悪いけど、これは没収ね。    さっ、二人とも、もう帰りなさい」     朔矢「はい、お先に失礼します、先生。    控誇も練習付き合ってくれてありがとな、それじゃっ」     (朔矢、部室から出て行く)     控誇「あっ、朔矢……」 美來「で、控誇さんはなんでこんなもの持ってきたの?」 控誇「え? いや……迫真の演技ができるかなあ、って思って……」 美來「だからといって、本物のナイフなんて持ってこないの」 控誇「はい……ごめんなさい。    ちょっと……風にあたって頭を冷やしてきますね……。    ……あれ……朔矢が帰ってる……。    ……一緒にいるのは……昴……?」     美來「ああ、あの二人、同じとこでバイトしてるらしいわよ」 控誇「バイト?」 美來「ええ、昴さんがバイトしてたところに、たまたま朔矢君もバイトに来たんだって」 控誇「そう……なんだ……」 (次の日、教室) 昴「おっはよ、控誇。 ……どうしたの?」 控誇「え? あ、おはよ」 昴「何か元気ないね、何かあったの?」 控誇「別に……」 昴「どうしたのよ〜、私でよければ相談に乗るよ」 控誇「っ!?    ……はあ……昴、バイトしてるんだって?」     昴「あ、知ってたんだ、そうだよ」     控誇「その……朔矢も同じバイト先なんだってね」 昴「あはは、そんなことまで知ってるんだ。   うん、結構一緒のシフトでバイトやってるよ」 控誇「そう……。    ……あたしもバイトしよっかな……」     昴「あっ、控誇もうちでバイトする?   店長に話しておくよ」    控誇「え? いいの?」 昴「うん、人手不足みたいだから、店長きっと喜ぶと思うよ。   実はあたし、シフト入れすぎちゃって……てへへ。   たまには控誇に、あたしの代わりに入って欲しいな〜、なんて」    控誇「昴の……代わり……?」 昴「別にあたしの代わり、ってわけじゃなくてもいいけどね。   ただ、夜ちょっと遅くなっちゃうから、朔矢君と一緒のシフトがいいかも、って店長が言ってたからね。   あたし、いつも朔矢君に帰り、送っていってもらってるから」    控誇「……そうなんだ。    じゃあ、店長さんに話しておいてくれる?」     昴「うん、分かった。   控誇みたいな明るい子だったら、きっと面接も一発合格だよ」 控誇「……うん、これで……いいよね……うまくいくよね……」