夢桜 第1話 一枚の花びら ■ 朔矢(さくや) 17歳♂ ちょっと優柔不断なところもある普通の高校生。 密かに昴に好意を抱いている。 ■ 控誇(くこ) 17歳♀ 演劇の才能があり、元気な子。 朔矢に好意を抱いている。 ■ 昴(すばる) 17歳♀ 誰にでも優しい、明るい子。 朔矢とバイト先が同じ。 ■ 美來(みらい) ?歳♀ 歴史の高校教師で演劇部の担任教師。 その正体は謎に包まれている。 美來「輪廻転生、魂は同じ人生を繰り返す。    生まれた地、環境、巡り合わせにかかわらず。    人間という器に閉じ込められた魂は、この輪廻から外れることはできない。    前世の記憶は夢のように幻となり、人間という器は桜のように散る。    そう、夢の中で何度も咲き続け、枯れ続ける桜のように――――」         (演劇部の部室、舞台上)     控誇「さあ、私に永遠の愛を誓いなさい」 朔矢「何を言っているんだ、俺には……心に決めた相手がいるんだ」 控誇「あなたが心に決めた人はもうこの世にはいないのよ。    私はあなたを愛している、あなたが心に決めた人はあなたを愛していたの?」     朔矢「愛していた……はずだ」 控誇「それなら、あなたはもうこの世にはいないその彼女を、これからも愛し続けるの?」 朔矢「……愛し……続ける……」 控誇「死んだ人間に向かって、よくもそんなことが言えるわね。    いい? あなたの目の前にいる私は、あなたのことを愛している」    後は、あなたからの愛があれば……」     朔矢「勝手なことを言うな!    俺が愛する相手は俺が決める」     控誇「まだ現実を見ることができないの……煮え切らない人ね。    これでもまだそんなことを言っていられる?」     (控誇は朔矢にオモチャのナイフを向ける)     朔矢「くっ……脅しか?」 控誇「愛していなければ、これから愛してくれればいい……」 朔矢「ば、馬鹿を言うな、こんな真似をされて愛せなんて……。    お前は……狂っているよ……」             美來「はい、カーット」 朔矢「ふぅ……どうでした? 先生」 美來「そうねぇ、朔矢君にはもう少し迫真の演技をしてもらいたいわね。    首元にナイフを突きつけられてるのよ、もっと怯えた様子で」     朔矢「はい、分かりました」 美來「でも、決して相手には屈しないという強い気持ちも前に出してね」 朔矢「はぁ……難しいですね……」 控誇「演劇も深いのよ〜。    先生、私の演技はどうでした?」     美來「うん、あらかたOKよ。    でもそうね、もっと強気な感じでいっていいわよ」     控誇「はいっ、本番までもっと練習しますねっ」 美來「演技なんだから、常識外れなくらいでいいわよ。    でも、それはあなたではなくて、あなたの『役』なんだからね」     控誇「え? あ、はい……」 美來「それじゃお疲れ様、二人とも気をつけて帰ってね」 朔矢「はい、ありがとうございました」 控誇「お疲れ様でした〜」 朔矢「さて、っと、今日は大道具も出してないしもう帰るか」 控誇「そうだね。    あ、今度二人で練習しようよ、本番も近いんだし」     朔矢「ん〜、そうだな、今度の劇は俺と控誇のセリフで台本が半分以上あるしな。    重点的に練習するのも悪くないか」     控誇「うんうん、練習する時は声かけるねっ。    さっ、一緒に帰ろ〜」     朔矢「って、俺は今日バイトだぜ?」 控誇「えー、いいよ〜、少し遠回りするくらい」 朔矢「いや、そういう問題じゃなくて……」 控誇「なに〜? あたしと一緒に帰るのが嫌なの〜?」 朔矢「そんなわけないけどさ……」 控誇「も〜……煮え切らない人ね。    これでもまだそんなことを言っていられる?」     朔矢「くっ……脅しか?    ……ってアホか、続きはまた今度練習しような。    それじゃな〜」     控誇「あっ、朔矢……。    ちえ〜、最近、朔矢、一緒に帰ってくれないなあ……。    何かあったのかな……?」         (次の日、教室)     昴「おっはよ、控誇」 控誇「あ、おはよ〜、昴」 昴「どう? 部活の方は」 控誇「うん、順調だよ〜、本番までもう少しだから後は練習あるのみだねっ」 昴「公演って、市民会館でやるんだよね」    控誇「うん、そうだよ」 昴「それって私も見に行けるの?」 控誇「うん、今回の大会は一般公開も兼ねてるから昴も見に来ることできるよ」 昴「わー、楽しみ!   今回って控誇がヒロインなのよね」    控誇「あはは、すっごいダークなヒロインなんだけどね」 昴「へぇ〜、ダークなヒロインなんてあるんだね。   控誇ってこんなに明るいキャラなのに、なんでキャスティングされたんだろうね」 控誇「あはは、でも……」 「演技なんだから、常識はずれなくらいでいいわよ。  でも、それはあなたではなくて、あなたの『役』なんだからね」 控誇「……えっ?」 昴「どうしたの?」 控誇「え? あ、いや、なんでもないよ。    だって演技だもん、どんな役でもできてこそ一流の役者よっ」     昴「あはは、確かにそうだね」 昴(へぇ〜、ダークなヒロインなんてあるんだね。   控誇ってこんなに明るいキャラなのになんでキャスティングされたんだろうね)    控誇(あはは、でも、意外とあたしにもそんなダークなところもあったりして〜) 昴(そうなの? 見えないな〜) 控誇(あ、逆かな、役をやってそんなダークな自分を見つけたって感じかな?) 昴(そっか、その役になりきらなきゃいけないもんね) 控誇(……うん、役に……なりきらなきゃいけないからね……)