重なる波紋に落ちる雫 第2話 広がる波紋 ■ 悠希(ゆうき) 17歳♂ 一人暮らしの高校生男子。普通。 頼まれると断れない性格。 ■ 雫(しずく) 10歳♀ 謎な女の子。 口数は少なく、大人しい。 ■ 煌祐(こうすけ) 17歳♂
主人公とは別の学校に通っている。 中学校からの親友。お調子者。 ■ 滴菜(しずな) 36歳♀ 雫の母親。 強い意志の持ち主であり、家族思い。 煌祐「おーっす、悠希〜、久々に遊びに来たぜ〜」 悠希「あ、煌祐……」 煌祐「ん? 誰だ? その子」 悠希「えっ? あっ……いや……」 煌祐「まさか、お前……」 悠希「ち、違うよ!    い、妹だよ、妹」   煌祐「この煌祐様をみくびるなよ!    お前に妹なんていない、一人っ子だろうが!」   雫「お兄ちゃん、この人、誰?」 悠希「え? あ、ああ、こいつは俺の友達の煌祐で……」 煌祐「お兄ちゃん? お前、そこまで手なずけたのか!」 悠希「あー! もう!    違うから、ちゃんと俺の話を聞け!」       煌祐「へぇ〜、それで雫ちゃんはお母さんにここに居なさい、って言われたのか」 悠希「うん、迎えに来る、って」 煌祐「そりゃあ育児放棄だろ。    相談所とかに行った方がいいんじゃねぇか?」   悠希「それも考えたんだけどね。    ここに居る、の一点張りでさあ……」   煌祐「お前、昔っから頼まれたら断れない性格だもんなあ。    じゃあさ、雫ちゃん、お母さんはいつ迎えに来るんだ?」   雫「……分からない」 煌祐「これじゃらちあかねぇんじゃねぇか?」 悠希「だよな……。    なあ、煌祐、今週末にでもこの子のお母さんを探しに行かないか?」   雫「えっ?」 煌祐「ああ、そうだな、母親の態度によっては俺がガツンと言ってやるぜ」 雫「いや……あの……」 悠希「うちに帰りたくないの?」 雫「そ、そういう訳じゃないんだけど……。   もっと……ここに居たい……」   悠希「とはいってもなぁ……」 煌祐「こそこそ隠れて生活するのは雫ちゃんも悠希も嫌だろ?    また遊びに来ればいいからさ、とりあえずは母ちゃん探そうぜ?」   雫「う、うん……」 煌祐「さて、それじゃどうやって探すか?」 悠希「うーん、警察もダメ、相談所もダメ、雫も口を割らない、かぁ」 煌祐「なんかもう八方塞じゃね?」 悠希「心配になって、うちの近所にいるかもしれないな。    とりあえず、近くを探してみるか」   煌祐「だな、じゃあ雫ちゃん、行こうか」 雫「え? ……うん……」 煌祐「母親っぽい人は見つからなかったな」 悠希「そうだな……明日は学校だし、また来週も手伝ってくれないか?」 煌祐「ああ、構わねぇぜ」 雫「あっ、あの……」 悠希「ん? どうしたの?」 雫「その……お母さん探さなくてもいいから……」 悠希「そう言われても……」 煌祐「雫ちゃんも学校に行って友達と遊びたいだろ?    悠希のトコにはまた遊びに来ればいいじゃん」   雫「うん……でも……」 悠希「とりあえず、お母さんが見つかったらまた考えようね」 雫「……うん……」 雫「お兄ちゃん……」 悠希「どうしたの?」 雫「動物園……連れていってくれないの?」 悠希「あ、ああ、そうだったね。    お母さんが見つかってから一緒に行こう。    また、うちにはいつでも遊びに来ていいからさ」   雫「……やだ……」 悠希「え? なんて?」 雫「ううん、なんでもないよ。   これ、あげる」 悠希「ん? 何これ?」 雫「学校の授業で作ったの」 悠希「水玉……紙粘土で作った雫模様のペンダント?」 雫「うん、私の名前も雫だから」 悠希「でも、いいの? もらっちゃっても」 雫「うん、お兄ちゃんにあげる」 悠希「そっか、ありがとう」 悠希「ただいま〜、っと……あれ?    雫? 隠れてるのか? おーい。    ……靴がない……一人で出ていったのか……?」       煌祐「それで……家に帰ったら雫ちゃん、いなくなってたのか?」 悠希「ああ、昨日も特に何も言ってなかったし……。    強いて言うなら、昨日は少し元気がなかったかな……」   煌祐「探そう、母親がお前の家に迎えに来るって言ってたんだよな」 悠希「ああ、自分の家も分からないって言っていたし、そうしよう」 煌祐「はぁ……見つかんねぇな……」 悠希「そうだな……日も暮れてきたな。    夜になる前に見つかるといいんだけど……」   煌祐「少し頭冷やして考えようぜ。    何か心当たりはないか?」   悠希「心当たり?    そうだな……あっ……」   煌祐「何か思いついたか?」 悠希「もしかしたらあそこに……」 雫「あっ……お兄ちゃん……」 悠希「やっぱり、ここに居たんだ」 煌祐「ここは……動物園の前?」 悠希「ああ、前に父親のことを聞いたんだけど、動物園の思い出しかない、って言っててな。    さ、雫、帰ろう」   雫「……やだ……」 悠希「え?」 雫「だって、帰ったら、またお母さんを探しに行っちゃうでしょ?」 悠希「そりゃあ……いつまでもお母さん迎えに来ないからね」 雫「……やだ……私、もっとお兄ちゃんと一緒に居たい……」 悠希「雫……?」 滴菜「すみません」 悠希「え?」 滴菜「私の娘が迷惑をかけて申し訳ありません」 煌祐「え? あんたは……雫ちゃんの母親……?」 滴菜「はい、このような身なりで申し訳ありません」 煌祐「そんなマスクにサングラスで……本当にあんた母親か?」 滴菜「雫、おいで」 雫「……うん……お母さん……」 悠希「本人が認めてるんだから、間違いないだろうな」 滴菜「雫、もう帰らなければならないけど、いい?」 雫「あの……私……」 滴菜「……そう。    すみません、悠希さん」   悠希「え? あ、はい」 滴菜「一度でいいんです、雫をだっこしてあげてくれませんか?」 煌祐「あのな、ただでさえ言いたいことがあるのに、あんた母親なら……」 悠希「いいよ、煌祐。    おいで、雫」   雫「……うん……」 悠希「よっ、と。    だっこして欲しかったのなら、最初から言ってくれればよかったのに」   雫「……おと……」 悠希「ん? 何?」 雫「……なんでもないよ、ありがとう、嬉しい……」 悠希「うん、また遊びにおいでね」 雫「うん、ありがとう」 滴菜「雫、行くわよ。    本当にご迷惑をおかけしました」   悠希「いえ、またよければ遊びに来てくださいね」 滴菜「はい……ありがとう……ございました」 雫「またね……お…兄ちゃん」 悠希「うん、またね」 煌祐「……まーったく、お前はお人よしだな。    普通は許せねぇぜ、あんな親子」   悠希「そうか? 別に俺は迷惑でもなかったし」 雫「お母さん……?   どうしたの、泣いてるの……?」   滴菜「……何でもないわ……。    雫は、楽しかった?」   雫「うん、最後にだっこしてもらって嬉しかったよ」 滴菜「そう……よかった……」